緑内障点眼薬の治療継続率、製品間で大きな差──日本の大規模レセプト解析
自覚症状に乏しく進行が緩やかな緑内障では、点眼治療を長期にわたって継続することが困難であることが大きな課題とされてきた。今回、日本の大規模医療保険レセプトデータを用いた解析により、同じ薬剤クラスであっても、緑内障点眼薬の治療継続率は製品によって大きく異なることが示された。研究は東京大学大学院薬学系研究科育薬学教室の壁矢健司氏、佐藤宏樹氏らによるもので、詳細は11月28日付で「BMC Ophthalmology」に掲載された。
緑内障は日本における不可逆的な失明の主因であり、QOL低下など医療費に反映されない社会的負担も大きい。治療の基本は点眼薬による眼圧下降で、作用機序の異なる多様な薬剤が用いられている。一方、緑内障は自覚症状に乏しく進行が緩徐なため、点眼治療の継続率は低い。近年、製剤や容器の改良などにより、治療継続性は同一薬剤クラス内でも製品によって異なる可能性が示唆されてきた。しかし、個々の製品レベルで継続率を体系的に評価した研究はなく、臨床での製品選択を支える情報は乏しい。このような背景を踏まえ、本研究は、日本の医療保険レセプトデータを用い、緑内障点眼薬の実臨床における治療継続性を製品別・製剤特性別・患者背景別に明らかにすることを目的とした。

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本研究では、株式会社JMDCが提供する、日本の0~74歳を対象とした医療保険レセプトデータ(2005年1月~2024年6月)を後ろ向きに解析した。外来で緑内障点眼薬を処方された患者のうち、原則として単一製品を継続使用した症例を抽出した。直前の処方の推定されるカバー終了日から観察終了日までに90日以上空いた場合を治療中断と定義し、最長5年間の年次治療継続率を算出した。継続率は製品、薬剤クラス、投与回数、年齢、性別ごとに評価し、多変量ロジスティック回帰分析で関連因子を検討した。感度分析や薬剤変更・併用を含む追加解析も行った。
データ精査後、7万3,027人の調剤記録が抽出され、解析に用いられた。対象患者の大半は男性で、年齢層では50代が最も多かった。全患者における治療継続率は、1年時点で57.5%(2万6,170/4万5,544人)で、その後徐々に低下し、5年時点では23.8%(2,060/8,667人)となっていた。
年齢、性別、薬剤クラス、1日の点眼回数を説明変数とした多変量ロジスティック回帰分析では、女性(回帰係数〔B〕=0.210)、60代(B=0.247)、および点眼回数が少ないこと(点眼回数が1回増えるごとにB=−0.660)が、いずれも治療継続率の高さと有意に関連していた(すべてP<0.001)。
最も多く処方された薬剤クラスはプロスタノイド受容体作動薬で、次いでβ遮断薬であり、両クラスで全処方の約80%を占めていた。薬剤クラス別の解析では、プロスタノイド受容体作動薬およびβ遮断薬との配合剤において、他の薬剤クラスと比べて相対的に高い治療継続率が示された。さらに、同一の薬剤クラス内であっても、製品ごとに1年および5年時点の継続率には大きなばらつきが認められた。
一方、薬剤変更や複数点眼を許容したサブ解析では、全体的な継続率が主要解析よりも14~19%ポイント高かった。炭酸脱水酵素阻害薬を含む治療や、1日2~3回投与の治療レジメンにおいて、単剤・固定条件下の解析と比べて継続率が特に高かった。
著者らは、「今回、国内の緑内障点眼薬の製品別治療継続率を初めて網羅的に解析した。解析の結果、製品ごとの継続率は同じ薬剤クラスでも40%ポイント以上の差があることがわかった。これは点眼容器や製剤の違いが使いやすさに影響し、治療を続けるかどうかの決定に関与していることを示唆している。これらの知見は、臨床現場で製品を選択する際に、使いやすさを慎重に考慮することの重要性を強調するものである」と述べている。
本研究の限界として、解析対象には緑内障患者の多くを占める75歳以上の高齢者は含まれていない為、結果の一般化には注意が必要である点や、本研究における治療継続率はレセプト上の処方継続を指標としたものであり、実際の点眼実施状況(服薬コンプライアンス)を直接評価したものではない点などを挙げている
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