• 高齢者のポリドクター研究、最適受診施設数は2〜3件か

     複数の医療機関に通う高齢者は多いが、受診する施設数が多ければ多いほど恩恵が増すのだろうか。今回、高齢者を対象とした大規模コホート研究で、複数施設受診が死亡率低下と関連する一方、医療費や入院リスクが上昇することが明らかとなった。不要な入院を予防するという観点からは最適な受診施設数は2〜3件とされ、医療の質と負担を両立させる上での示唆が得られたという。研究は慶應義塾大学医学部総合診療教育センターの安藤崇之氏らによるもので、詳細は9月1日付で「Scientific Reports」に掲載された。

     高齢者では、複数の併存疾患を抱える人も少なくない。多疾患は死亡率や要介護、入院率、医療費の増加と関連しており、高齢化社会を特徴とする先進国の医療制度に大きな課題をもたらしている。特に日本では、多疾患を持つ高齢者の増加に伴い、「ポリドクター(polydoctoring、複数の医師による診療)」と呼ばれる現象が社会的な問題となっている。「ポリドクター」は、異なる医師や医療施設が患者を管理することで、ケアの分断や医療費の増加を招くリスクがある点が懸念されている。

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     著者らは以前、高齢者のポリドクターの背景として、眼疾患や骨粗鬆症、前立腺疾患、変形性関節症といった慢性疾患が関連することを示した。しかし、ポリドクターが患者の転帰にどのように影響するかは十分に解明されていない。そこで著者らは、日本の大規模保険請求データベースを用い、多疾患を抱える高齢者の定期通院施設数(RVF)と、死亡や入院などの転帰との関連を明らかにするため、後ろ向きコホート研究を実施した。

     本研究では、DeSCヘルスケア株式会社が提供するデータベースを用い、75~89歳の複数の慢性疾患を有する患者233万8,965人を解析対象とした。追跡期間は2014年4月~2022年12月であった。主要評価項目は全死亡率とした。副次評価項目は全入院、外来ケアで予防可能な疾患(ACSC)による入院、外来医療費が含まれた。いずれの評価項目も多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。各群の比較はRVFが1施設の群を基準として行った。

     解析対象の中央値年齢は78歳で、参加者の58%が女性だった。RVFの中央値は2施設、併存疾患の中央値は5つであった。外来医療費の中央値は37万1,230円だった。追跡期間中に33万8,249人(14.5%)が死亡し、122万201人(52.2%)が入院した。そのうち29万1,376人(12.5%)はACSCによる入院であった。

     全死亡に対する多変量Cox比例ハザードモデルでは、RVFが0施設の群(定期受診なし)が最も死亡率が高く、RVFの施設数が増えるにつれて生存率は改善した。RVFが0施設の参加者の死亡リスクは最も高く、ハザード比(HR)は3.23(95%CI 3.14~3.33、P<0.0001)であった。一方、RVFが5施設以上の参加者では死亡リスクが最も低く、HRは0.67(95%CI 0.62~0.73、P<0.0001)であった。ACSCによる入院では、2~3施設の群で入院率が最も低く、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇するU字カーブを描いた。

     外来医療費についても、RVFの施設数が増えるにつれて費用も増加する傾向が見られた。RVFが5施設以上の参加者では、RVFが1施設の参加者に比べ外来医療費が3.21倍(95%CI 3.17~3.26、P<0.0001)に増大した。

     本研究について著者らは、「ポリドクターは死亡率を低下させる一方で、入院率や医療費の増加とも関連しており、ACSCによる入院を最小化する最適な受診施設数は2~3施設であることが示された。これらの結果は、高齢化社会において、ケアの連携や医療資源の管理を改善しつつ、ポリドクターのメリットとコストのバランスをとる戦略の必要性を示している」と述べている。

     なお、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇する理由については、関与する医療機関が多すぎるとケアの継続性が損なわれ、全体的なメリットが減少する可能性を指摘している。

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    HealthDay News 2025年10月14日
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  • 日本の高齢者データが示す、室内温度と抑うつ症状の関連性

     住環境は高齢者の心の健康にどのような影響を与えるのだろうか。今回、室内の寒さや暑さを十分に防げない住宅に暮らす高齢者ほど、抑うつ症状を抱える割合が高いことが示された。温度調節の難しい住宅に住む高齢者では、抑うつ症状のリスクが1.57倍に上ることが明らかになったという。研究は、東北大学医学部の岩田真歩氏、同大学歯学イノベーションリエゾンセンターデータサイエンス部門の竹内研時氏らによるもので、詳細は8月22日に「Scientific Reports」に掲載された。

     日本では室内の温熱環境が深刻な課題となっている。四季のある日本だが、既存住宅の約39%は断熱されておらず、暖房も居間や寝室に限った断続的な使用が一般的で、欧米諸国の全館連続暖房の1/4程度のエネルギーしか使われていない。そのため冬季にWHO推奨の最低室温18℃を満たす住宅は10%未満で、異常な室内温度は心身に悪影響を与え、生活の質(QoL)を低下させることも報告されている。夏季も断熱不足と気候変動による室内の高温が問題化しており、2024年には熱中症で救急搬送された約9万人のうち、住宅内で発生したケースが約38%を占めた。日本は2007年以降超高齢社会であり、高齢者は自宅で過ごす時間が長く、抑うつ症状が認知症や虚弱リスクを高めることを踏まえ、特に自立高齢者における室内の寒さ・暑さと抑うつの関連を検討する必要がある。このような背景から、著者らは自立高齢者における室内温度の知覚と抑うつ症状との関連を検証した。

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     本研究では、2022年の日本老年学的評価研究(JAGES)の横断データより、65歳以上の自立高齢者を対象とした。従属変数は抑うつ症状の有病率とし、独立変数は住宅が室内の寒さや暑さを防げるかどうかについての参加者の自己報告とした。有病率比(PR)と95%信頼区間(CI)は、潜在的交絡因子を共変量として含めたポアソン回帰モデルを用いて推定した。さらに、地域差を検討するため、地域別に解析を行った。

     解析対象となった参加者1万7,491人(男性49.4%)のうち、22.8%が抑うつ症状を示した。参加者の5.1%は寒さや暑さを防げない住居に住んでおり、そのうち41.7%に抑うつ症状が認められた。一方、94.9%は寒さや暑さを防げる住居に住んでおり、その21.8%に抑うつ症状があった。

     また、性別・年齢に加え、年収や住居の種類、居住年数などの交絡因子を調整した結果、寒さや暑さを防げない住宅に住む参加者は、防げる住宅に住む参加者と比べて、抑うつ症状のPRが1.57倍(95%CI 1.45~1.71)高いことが分かった。地域別の層別解析では、最北端で最も寒冷な気候の北海道を除くすべての地域で、有意な関連が認められた。

     本研究について著者らは、「本研究により、室内の寒さや暑さを感じることが、抑うつ症状の有病率の増加と関連していることが明らかになった。今後は、断熱材の設置などによる室内の温熱環境の改善が抑うつ症状の予防に与える影響を検討する研究が期待される」と述べている。

     なお、著者らは、屋内の室温が抑うつ症状に与える影響として、寒冷環境では血圧上昇や脳血流・海馬機能の変化、暑熱環境では脳冷却の困難や血液脳関門の透過性上昇が関与すると指摘している。また、いずれの環境も睡眠の質を低下させ、抑うつ症状の増加に結びつく可能性があると著者らは考察している。

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    HealthDay News 2025年9月29日
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  • ふくらはぎが細くなったら筋量減少のサインかも?

     骨格筋量の減少は中年期から始まり、加齢とともに進行する。筋量の低下は、高齢者における転倒やさまざまな疾患の発症リスクにつながるため、早期の発見と予防が重要である。今回、ふくらはぎ周囲長の変化で筋量の変化を簡易評価できるとする研究結果が報告された。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化は筋量の変化と正の相関を示したという。研究は公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らによるもので、詳細は「Clinical Nutrition ESPEN」に5月29日掲載された。

     ふくらはぎ周囲長は高齢者の栄養状態や骨格筋量の簡便な指標とされているが、その変化と筋量変化との関連を直接検討した縦断研究は存在しない。そこで著者らは、日本人成人を対象に、2回のコホート研究のデータを用いて両者の関連を検証する縦断研究を行った。

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     解析対象は、2015年3月から2024年9月の間に計2回のWASEDA’S Health Studyに参加した40~87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)とした。ふくらはぎ周囲長は立位で左右それぞれ2回ずつ計測し、その平均値を解析に用いた。また専用機器(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて両腕両脚の筋量(四肢筋量)を測定し、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係を解析した。ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との相関を評価するため、ピアソンの相関係数を算出した。さらに、年齢および肥満の影響を評価するため、対象者を年齢(中年〔60歳未満〕と高齢〔60歳以上〕)および体脂肪率(非肥満と肥満)で二分し、サブグループ解析を行った。

     解析対象の平均年齢は男性が55±10歳、女性が51±7歳で、平均追跡期間は8.0±0.4年だった。ベースラインから追跡期間終了までのふくらはぎ周囲長と四肢筋量の平均変化量は、それぞれ-0.1±1.2cmと-0.7±1.0kgだった。ふくらはぎ周囲長と四肢筋量の変化量は男性および女性の両方で正の相関を示した(それぞれ相関係数r=0.71)。主要解析と同様に、年齢および肥満に基づくサブグループ解析においても、ふくらはぎ周囲長と四肢筋量との間に正の相関が示された(中年、高齢、非肥満、および肥満成人でそれぞれr=0.70、0.67、0.69、および0.72)。

     本研究について著者らは、「本研究は、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量変化の関連を世界で初めて縦断的に示した研究である。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化には正の相関が確認された。ふくらはぎ周囲長のモニタリングにより、誰でも簡便に筋量の減少に気づける可能性が示唆され、サルコペニアの早期発見・予防につながる。筋量や筋力の低下はQOLの低下を招くが、年齢を問わず改善は可能であり、本研究は健康寿命の延伸に大きく貢献する知見となるだろう」と述べている。

     本研究の限界については、解析対象が早稲田大学の卒業生とその配偶者に限られており、人口全体を代表していない可能性があること、サブグループ解析においては対象数が少なかったことなどを挙げている。

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    HealthDay News 2025年7月14日
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  • 高齢の日本人男性で腸内細菌叢がサルコペニアと相関か

     我々の腸内には、約1,000種類・100兆個にも及ぶ細菌が存在している。これらの細菌は、それぞれ独自のテリトリーを維持しながら腸内細菌叢(GM)という集団を形成している。近年では、GMが全身疾患と関連していることが明らかになってきた。今回、日本の高齢者を対象とした研究において、男性サルコペニア(SA)患者では、非SA患者に比べてGMのα多様性が有意に低下しβ多様性にも有意な違いを認めることが報告された。研究は順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科の浅岡大介氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に5月21日掲載された。

     SAは、加齢に伴い骨格筋量、筋力、身体機能が低下する病気だ。SAを患う患者は転倒、入院、死亡のリスクが高まるため、早期発見と適切な介入が不可欠となる。また、近年、SAの発症にはGMが関与することが示唆されている。GMの細菌構成が乱れた状態(ディスバイオシス)では、腸管透過性が亢進し、いわゆる「リーキーガット(腸管壁侵漏)」による炎症が引き起こされ、結果としてSAの進行につながっている可能性がある。日本人は独特な食習慣の影響で、他の集団とは著しく異なるGMプロファイルを持つことが知られている。しかし、特に高齢の日本人集団におけるGMとSAの関係については、まだ十分に解明されていない。このような背景から著者らは、アジアにおけるSA診断基準としては2019年に改訂された最新のアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019基準で診断された高齢者のSAとGMプロファイルとの関係を検討した。

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     本研究では、2022年6月から2023年1月にかけて、順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科に外来通院していた65歳以上の患者から採取した便検体を用い、前向きの横断研究を実施した。SAはAWGS2019診断基準に基づき、握力、歩行速度、DXA法による骨格筋量指数(SMI)に基づき診断された。GMプロファイルは16S rRNA遺伝子シーケンス解析を用いて解析し、(1)SAに関するGMのα多様性(個体内のGMでどの種がどの位均等に存在しているか)・β多様性(個体間のGMでどれ位多様性が異なるか)・性差、(2)SAに関連する腸内細菌属の占有率や検出率、(3)SMI、握力、歩行速度と腸内細菌属との相関を調査した。

     本研究の最終的な解析対象は356名(男性144名、女性212名)であり、このうちSAは50名(男性35名、女性15名)含まれた。β多様性は男女間で有意に異なっていたため、性別によるサブグループ解析を実施した。その結果、男性のSA群ではα多様性のいくつかの指標が低かった(ディスバイオシスの状態)。男性のGMのβ多様性は、SA群と非SA群で有意な違いが認められた。一方で女性の場合は、α多様性およびβ多様性のいずれにも有意な違いは認められなかった。

     次に、SAに関連する腸内細菌属の占有率を調べたところ、6種の細菌属(Eubacterium I、Fusicatenibacter、Holdemanella、Unclassified Lachnospira、Enterococcus H、Bariatricus)の腸内占有率が男性のSA群で低いことが明らかになった。一方で、女性のSA群と非SA群の細菌構成比に明らかな違いは認められなかった。スピアマンの順位相関係数を用いて、これらの細菌属と筋力に関連する指標との相関を調べたところ、男性の検体において、Unclassified Lachnospira は握力と、FusicatenibacterおよびEnterococcus Hは握力および歩行速度との間に有意な正の相関を示した。HoldemanellaはSMIと正の相関を示していた。しかし、女性の検体ではこれらの菌属とSMI、握力または歩行速度との間に有意な相関は認められなかった。

     本研究について著者らは、「本研究は、日本で初めて臨床において高齢者集団のGM組成とAWGS2019診断基準で診断されたSAとの関連を調査した研究である。今回の結果から、高齢の日本人男性において、GMの組成がSAと関連することが示された。これは、日本の高齢男性におけるSA予防のために、腸内細菌をターゲットとした戦略が有効である可能性を示唆している」と述べている。

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    HealthDay News 2025年7月7日
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  • スポーツを現地観戦する高齢者は幸福感が高い

     主観的な幸福感を高めることは、高齢者が晩年を健康的に過ごすために極めて重要だが、今回、年数回のスポーツ現地観戦をすることで高齢者の幸福感が向上する可能性がある、とする研究結果が報告された。テレビ・インターネットではなく、会場で観戦することが重要だという。研究は千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門の河口謙二郎氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月9日掲載された。

     世界でも高い水準で高齢化が進んでいる日本においては、高齢者がいかに幸福度を維持しながら老後を過ごしていくかが課題の一つとなっている。過去には、スポーツによる身体活動だけでなく、スポーツ観戦といった受動的な参加によっても主観的幸福感が向上することが報告されてきた。しかし、スポーツ観戦においては、現地、テレビ、インターネットなどでそれぞれ幸福感との関係が異なる可能性も示唆されており、既存の研究の中では十分な検討がなされていない。そのような背景を踏まえ、著者らはスポーツ観戦をする高齢者は、観戦しない高齢者よりも幸福感が高いという仮説を立て、現地、テレビ・インターネットでのスポーツ観戦と幸福感との関連を大規模疫学研究のデータを用いて検討することとした。

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     解析対象には、地域在住の65歳以上を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)データベースより、2019年と2022年の両方でスポーツ観戦に関する質問に回答した1万1,265人が含まれた。研究における幸福感は、0~10までの間で全体的な幸福感を評価してもらいスコア化した。スポーツ観戦の頻度は、「現地観戦(プロ、アマ含む)」、「プロスポーツの現地観戦」、「テレビ・インターネットでの観戦」それぞれについて、「全く観戦しない」、「年に数回」、「月に1~3回以上」、「週に1回以上」の選択肢の中から回答してもらい集計した。カテゴリごとに十分なサンプル数を確保するために、各選択肢は、「全く観戦しない」、「年に数回」、「月に1回以上」という3つのグループに分類した。

     解析対象1万1,265人の平均年齢(±標準偏差)は73.6±5.6歳であり、女性は5,883人(52.2%)含まれた。年齢、性別などの交絡因子を調整後、スポーツ観戦と幸福感に関する線形回帰分析を行った結果、「現地観戦」では「年に数回」の観戦をした高齢者は、「全く観戦しない」高齢者よりも幸福感スコアが高かった(偏回帰係数B 0.11〔95%信頼区間0.03~0.19〕)。「プロスポーツの現地観戦」に関しても、「年に数回」の観戦は幸福感スコアの上昇と有意に関連していた(B 0.12〔0.02~0.22〕)。「テレビ・インターネットでの観戦」については、観戦頻度に関わらず、スポーツ観戦と幸福感スコアの間に有意な関連は認められなかった。

     次に、スポーツ観戦と高い幸福感スコア(スコア8以上)の出現割合比(PR)について検討を行った。交絡因子を調整後、修正ポアソン回帰分析を行った結果、「現地観戦」では「年に数回」および「月に1回以上」観戦をした高齢者では、「全く観戦しない」高齢者よりPRが有意に高かった(それぞれPR 1.07〔1.03~1.12〕、PR 1.07〔1.00~1.14〕)。「プロスポーツの現地観戦」では、「全く観戦しない」高齢者に比べ、「年に数回」の観戦でPRが有意に高くなっていた(PR 1.06〔1.01~1.12〕)。「テレビ・インターネットでの観戦」に関しては、観戦頻度に関わらず、有意なPRの上昇は認められなかった。

     「スポーツの現地観戦、プロスポーツの現地観戦において年に数回の観戦が幸福感の高さと関連する」というこの傾向は、スポーツクラブへの参加の有無、年齢、性別の層別解析により、スポーツクラブ不参加、男性、および75歳未満の高齢者でより顕著であることが分かった。

     本研究について著者らは、「本研究の強みは大規模データベースを用いた点、幸福な人がスポーツ観戦を好むという逆因果関係の可能性を低減する工夫をした点にある。今回得られた結果は、高齢者の幸福感を高めるには、スポーツ観戦へのアクセスを促進する、的を絞った介入策が重要であることを示唆しているのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2025年5月26日
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  • デジタルゲームは高齢者に健康と幸せをもたらすのか

     ネット・ゲーム依存は身体活動の低下といった健康問題につながるが、高齢者の場合では、デジタルゲームにより身体活動が低下する可能性は低いということが明らかになった。千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門の中込敦士氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research」に1月27日掲載された。

     デジタルゲームは高齢者の間でも人気が高まっており、認知的、社会的、身体的なメリットをもたらす可能性がある。しかしながら、高齢者において、デジタルゲームが健康と幸福にどのような影響を及ぼすかは依然として不明だ。中込氏らは、全国で実施された日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使用して、デジタルゲームが高齢者の健康と幸福に与える多面的な影響を評価した。

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     本研究ではJAGESのデータベースより、2020年、2021年、2022年のデータを抽出した。デジタルゲームに関しての質問票が含まれていたのは、千葉県松戸市のみであったため、分析は松戸市の参加者のデータに焦点を当てた。

     2021年のデータの中で、過去5年間におけるデジタルゲーム(PC、携帯電話、スマートフォン、タブレット、またはコンソールによるビデオゲームと定義)の経験に関する質問に対して、「定期的にプレイしている」と答えた参加者を含む2,504人を対象とした。2022年に、これらの参加者に対してデジタルゲームに関する評価が行われた。また、2,504人の参加者のうちランダムに選択された1,243人(「定期的にプレイしている」192人を含む)に対しては、健康やウェルビーイングを含む人としての豊かさを評価する「Human Flourishing Index」評価も行われた。

     評価項目は6つの領域にわたる18の質問で構成されていた。領域は、1;幸福と生活満足度、2;心身の健康、3;意味と目的、4;性格と美徳、5;親密な社会関係、6;健康に関する行動、とされ領域の1~5に「Human Flourishing Index」の各2問の質問が設定された。全般的な豊かさである「Overall flourishing」は領域1~5までの平均とした。さらに領域2、5、6に関連する項目が追加された。

     Bonferroni法で補正し多重検定を行った結果、デジタルゲームは「Overall flourishing」、「Human Flourishing Index」のいずれとも有意な関連は認められなかった(P=0.12~P>0.99)。また、領域6の「座位時間の増加」(リスク比 1.055〔95%信頼区間0.788~1.105〕、P=0.72)、「屋外での活動減少」(平均差異0.026〔-0.081~0.133〕、P=0.64)とも関連していなかった。Bonferroni法で補正した結果、有意とはならなかったが、「趣味のグループへの参加」(平均差異0.124〔0.037~0.210〕、P=0.005)「友人との交流」(平均差異0.076〔0.010~0.142〕、P=0.02)でデジタルゲームとの強い関連が示された。

     中込氏らは、この研究結果を、「リアルワールドデータにおいて、デジタルゲームが高齢者の健康と幸福に与える影響に関する貴重な洞察が得られた」とした上で、「(デジタルゲームが身体活動の低下と関連していなかった点について)デジタルゲームは、高齢者のバランスの取れたライフスタイルの一部となり、特に趣味のグループを通じて社会参加の機会を提供できるのでは」と述べている。なお、本研究の限界点として、データは1つの都市から得られたもので、調査結果の一般化はできないこと、本研究が観察研究であることなどを挙げている。

    軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2025年3月10日
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  • よく笑う人にはオーラルフレイルが少ない

     笑う頻度が高い人にはオーラルフレイルが少ないことが明らかになった。福島県立医科大学医学部疫学講座の舟久保徳美氏、大平哲也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月5日掲載された。

     近年、笑うことが心身の健康に良いことを示唆するエビデンスが徐々に増えていて、例えば笑う頻度の高い人は心疾患や生活習慣病が少ないことが報告されている。一方、オーラルフレイルは、心身のストレス耐性が低下した要介護予備群である「フレイル」のうち、特に口腔機能が低下した状態を指す。オーラルフレイルでは食べ物の咀嚼や嚥下が困難になることなどによって、身体的フレイルのリスク上昇を含む全身の健康に負の影響が生じる。舟久保氏らは、このオーラルフレイル(以下、OFと省略)にも笑う頻度が関連している可能性を想定し、福島県楢葉町の住民を対象とする横断研究を行った。

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     2020~2021年の住民健診に参加した年齢60~79歳の1,717人のうち、研究参加への同意を得られ、データ欠落のない916人(平均年齢68.4±5.0歳、男性46.2%)を解析対象とした。両年度とも参加していた人については2020年度のデータを使用した。OFの評価には、「硬い食べ物を食べるのが困難か?」など8項目の質問から成る精度検証済みの質問票(Oral Frailty Index-8;OFI-8)を使用。そのスコアに基づき、OFなしが40.3%、プレオーラルフレイル(OFの予備群〔POF〕)が18.2%、OFが41.5%と判定された。笑いの頻度については、「声を出して笑う頻度は?」という質問で評価。ほぼ毎日が40.8%、週に1~5回が43.3%、月に1~3回が11.1%、ほとんどないが4.9%だった。

     笑う頻度が「週1回未満」の群を基準として、年齢と性別の影響を調整した解析(モデル1)の結果、笑う頻度がほぼ毎日の群にはOFが有意に少なく(オッズ比〔OR〕0.38〔95%信頼区間0.26~0.57〕)、頻度が週に1~5回の群もOFが少なかった(OR0.51〔同0.35~0.76〕)。調整因子に、喫煙・飲酒・運動習慣、身体的フレイル、高血圧・糖尿病の既往を追加した解析(モデル2)では、笑う頻度が週に1~5回の群についてはOFとの関連の有意性が消失したが(OR0.66〔0.43~1.02〕)、頻度がほぼ毎日の群では引き続きOFが有意に少ないという関連が認められた(OR0.54〔0.34~0.86〕)。

     モデル2において、笑う頻度以外に、抑うつ症状がないこともOFに対する負の有意な関連因子だった(「抑うつ症状あり」を基準とするOR0.39〔0.25~0.61〕)。その一方、高齢(1歳高齢であるごとにOR1.08〔1.05~1.11〕)、女性(OR1.74〔1.14~2.65〕)、喫煙(現喫煙がOR2.63〔1.57~4.40〕、過去喫煙がOR1.75〔1.15~2.66〕)、飲酒(毎日がOR1.70〔1.15~2.51〕、機会飲酒は非有意)は、正の有意な関連因子として特定された。運動習慣や地域活動への参加は、モデル1では有意な負の関連が認められたが、モデル2では非有意となった。

     著者らは、本研究が新型コロナウイルスパンデミック中に実施されたことが結果に影響を及ぼしている可能性を否定できないといった限界点を挙げた上で、「交絡因子を調整後、毎日笑うことと抑うつ症状がないことが、OFの少なさと関連していた。公衆衛生戦略として、社会的なコミュニケーションを拡大して人々が声を出して笑える頻度を増やし、抑うつのリスクを抑制することが、フレイル予防・改善を通じて健康寿命を延伸する可能性があるのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2025年1月27日
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  • ビタミンD値が低いとサルコペニアのリスクが高い可能性

     血清ビタミンD値が低い高齢者は骨格質量指数(SMI)が低くて握力が弱く、サルコペニアのリスクが高い可能性のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学の赤坂憲氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月1日掲載された。

     サルコペニアは筋肉の量や筋力が低下した状態であり、移動困難や転倒・骨折、さらに寝たきりなどのリスクが高くなる。また日本の高齢者対象研究から、サルコペニア該当者は死亡リスクが男性で2.0倍、女性で2.3倍高いことも報告されている。

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     サルコペニアの予防・改善方法として現状では、筋肉に適度な負荷のかかる運動、および、タンパク質を中心とする十分な栄養素摂取が推奨されており、治療薬はまだない。一方、骨粗鬆症治療薬として用いられているビタミンD(VD)に、サルコペニアに対する保護的作用もある可能性が近年報告されてきている。ただし、一般人口におけるVDレベルとサルコペニアリスクとの関連は不明点が少なくない。これを背景として赤坂氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いて、年齢層別に横断的解析を行った。

     SONIC研究参加者のうち、年齢層で分けた際のサンプル数が十分な70歳代(平均年齢75.9±0.9歳、男性54.2%)と、90歳代(92.5±1.6歳、男性37.5%)を解析対象とした。全員が自立して生活していた。

     血清25(OH)D(以下、血清VDと省略)の平均は、70歳代では21.6±5.0ng/mLであり、35.8%が欠乏症(20ng/mL未満)だった。90歳代では平均23.4±9.1ng/mLであり、43.8%が欠乏症だった。なお、VDは日光曝露によって皮膚で生成されるため、日照時間の違いを考慮して季節性を検討したところ、70歳代の男性では、冬季測定群に比べて夏季測定群の方が有意に高値だった。

     サルコペニアのリスク評価に用いられている、SMI、握力、歩行速度、および、BMIや血清アルブミン、血清クレアチニンと、血清VDとの関連を単回帰分析で検討すると、年齢層にかかわらず、SMIと握力が血清VDと有意に正相関し、その他の因子は関連が見られなかった。それぞれの相関係数(r)は、以下の通り。70歳代の血清VDとSMIは0.21、血清VDと握力は0.30(ともにP<0.0001)、90歳代の血清VDとSMIは0.29(P=0.049)、血清VDと握力は0.34(P=0.018)。

     続いて、SMIおよび握力を従属変数、性別を含むその他の因子を独立変数とする重回帰分析を施行した。その結果、70歳代のSMIについては、血清VDが有意な正の関連因子として特定された(β=0.066、P=0.013)。一方、70歳代の握力に関しては、血清VDは独立した関連が示されなかった。また90歳代では、SMI、握力ともに血清VDは独立した関連因子でなかった。

     著者らは本研究の限界点として、横断的解析であり因果関係は不明なこと、日光曝露時間や栄養素摂取量が測定されていないことなどを挙げた上で、「地域在住の自立した高齢者では、血清VDレベルはSMIや握力と関連しているが、歩行速度とは関連のないことが明らかになった。この結果は90歳代よりも70歳代で明確だった」と総括。また、「さらなる研究が必要だが、血清VDレベルを維持することが骨格筋量の維持に寄与する可能性があるのではないか」と付け加えている。

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    HealthDay News 2024年10月28日
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  • 発酵乳製品の摂取頻度の多寡で高齢者の歩行速度に差が生じる――中之条研究

     発酵乳製品が加齢に伴う歩行速度の低下を抑制することを示唆するデータが報告された。摂取頻度の多寡によって、男性では歩行速度に7.3年分に相当する差が生じ、さらに日常の歩数の多寡も考慮した場合、最大で22.0年分の差が生じる可能性があるという。東京都健康長寿医療センター研究所運動科学研究室の青栁幸利氏らの研究によるもので、詳細は「Beneficial Microbes」に7月5日掲載された。

     加齢に伴い身体機能およびトレス耐性が低下した、要介護予備群とも言える「フレイル」への公衆衛生対策が急務となっている。フレイルの予防には適度な運動とバランスの良い食事が大切と考えられていて、特に食事に関してはタンパク質摂取の重要性とともに近年、ヨーグルトなどの発酵乳製品の有用性が示されてきている。ただし、その効果を実際にヒトで検討した研究報告はまだ少ない。

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     以上を背景として青栁氏らは、群馬県中之条町で行われている地域在住高齢者対象疫学研究「中之条研究」のデータを用い、横断的および縦断的解析を実施した。解析対象は、自立した生活を送っていて、慢性・進行性疾患(がん、認知症、関節炎、パーキンソン病など)のない65歳以上の高齢者。栄養士が食事調査を行い、発酵乳製品(チーズを除く)の摂取頻度が週3日未満/以上で二分。また、加速度センサーで把握された歩数が1日7,000歩未満/以上で二分した上で、歩行速度を比較検討した。

     横断的解析の対象は581人(年齢範囲65~92歳、男性38.6%)で、発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上の割合は、男性では56.3%、女性は71.1%。男性・女性ともに両群間で年齢、BMI、および1日の歩数に有意差はなかった。男性の日常の歩行速度は、発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上の群が1.37±0.21m/秒、摂取頻度が3日未満の群は1.31±0.20m/秒であり、最大歩行速度は同順に2.15±0.45m/秒、2.02±0.42m/秒だった。交絡因子(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、およびエネルギー摂取量またはタンパク質摂取量)を調整後、両群の歩行速度に有意差が観察された。女性の歩行速度については、有意差が認められなかった。

     一方、1日の歩数が7,000歩以上の割合は、男性では48.2%、女性は45.1%であり、7,000歩以上の群は年齢が若くBMIが低かった。交絡因子(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣)を調整後、性別にかかわらず日常の歩行速度および最大歩行速度ともに、歩数7,000歩以上の群の方が有意に速いことが分かった。

     発酵乳製品の摂取頻度と歩行速度を組み合わせて全体を4群に分けて比較すると、男性では発酵乳製品の摂取頻度が高くて歩数が多い群の日常の歩行速度が最も速く、他の3群との間に有意差が認められ、女性もほぼ同様の結果(歩数7,000歩以上で発酵乳製品の摂取頻度3日/週未満の群との差は非有意)だった。

     なお、男性では、1歳高齢になるごとに日常の歩行速度が0.0082m/秒低下すると計算された。発酵乳製品摂取頻度の多寡による2群間の歩行速度の差は0.06m/秒であったことから、歩行速度上は7.3年分の年齢差が存在していると考えられた。さらに歩数の多寡を考慮した場合、発酵乳製品の摂取頻度が高くて歩数が多い群と発酵乳製品の摂取頻度が低くて歩数が少ない群との群間差は0.18m/秒であり、22.0年分の年齢差が生じていると計算された。

     縦断的解析は、2014年と5年後の2019年の調査に参加した240人(年齢範囲65~91歳、男性42.9%)を対象として実施された。2014年時点で発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上だったのは68.8%だった。2019年の日常の歩行速度は、摂取頻度が週3日未満の群では5年前と比べて0.11±0.14m/秒低下していたのに対して、摂取頻度が3日以上の群の低下幅は0.064±0.169m/秒にとどまっており、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、2014年時点の日常の歩行速度)を調整後に有意な群間差が認められた。

     これら一連の結果を基に著者らは、「発酵乳製品の習慣的な摂取が高齢者の歩行速度の低下抑制に寄与する可能性があり、また歩数が多いことと相加効果も期待できるのではないか」と述べている。なお、発酵乳製品の効果発現のメカニズムとしては、既報研究からの考察として、発酵乳製品中に含まれる微生物による腸管内の短鎖脂肪酸の増加を介して筋肉にエネルギーが供給されたり、慢性炎症が抑制されたりすることの関与が考えられるとしている。

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  • フレイル女性では台所で過ごす時間が長いほど食生活が健康的

     高齢の日本人女性を対象に行われた研究から、台所で過ごす時間が長いほど健康的な食生活を送っていて、この関連はフレイルの場合により顕著であることが分かった。高崎健康福祉大学、および、お茶の水女子大学に所属する佐藤清香氏らが行った横断研究の結果であり、詳細は「Journal of Nutrition Education and Behavior」に7月20日掲載された。

     フレイルは、「加齢により心身が老い衰えた状態」であり、健康な状態と要介護状態の中間のこと。フレイルを早期に発見して栄養不良や運動不足に気を付けることで、フレイルが改善される可能性がある。フレイルの初期には、台所で行われる調理作業の支障の発生という変化が生じやすいことが報告されており、調理に手を掛けられなくなることは栄養の偏りにつながる可能性がある。また、台所での作業は身体活動の良い機会でもある。そのため、台所で過ごす時間の減少を見いだすことは、フレイルの進行抑止につながる可能性がある。これらを背景として佐藤氏らは、高齢女性が台所で過ごす時間と健康的な食事を取る頻度との関係を調査し、その関係にフレイルが及ぼす影響を検討した。

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     2023年1月に、調査会社の登録者パネルを用いたオンライン調査を行い、国内に居住している65歳以上の女性600人(平均年齢73.8±5.7歳)から回答を得た。食生活については、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度を質問して、それが1日2回以上の場合を「健康的」と判定した。なお、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いほど「日本人の食事摂取基準」に示されている栄養素量を満たしていることが多いと報告されており、また「健康日本21(第三次)」でも「ほぼ毎日主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する人の割合を令和14年度までに50%とする」という目標が掲げられている。

     フレイルの判定は、市町村の介護予防事業対象者の抽出に用いられている25項目の質問から成る基本チェックリストを用いた。その結果、21.2%がフレイル、34.0%がプレフレイルと判定された。主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する頻度については「ほぼ毎日」が77.5%を占めていたが、フレイルの有無別に比較すると、健常群では84.8%であるのに対して、プレフレイル群では77.0%、フレイル群では63.8%と少なかった(P<0.001)。台所で過ごす時間(P=0.02)や台所の使用頻度(P=0.004)についても、健常、プレフレイル、フレイルの順に低値となるという関連が認められた。なお、台所で過ごす時間は「1日2時間」が最も多く選択され(44.8%)、台所の使用頻度は「毎日」が最多(95.0%)だった。

     次に、1日に2回以上主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を摂取する頻度を従属変数として、フレイルの判定および1日に台所で過ごす時間との関連を検討した。結果に影響を及ぼし得る、年齢、BMI、婚姻状況、独居/同居、就労状況、介護サービス利用状況の影響は調整した。

     解析の結果、健常であること(b=0.61〔95%信頼区間0.34~0.89〕)と台所で過ごす時間が長いこと(b=0.38〔同0.23~0.53〕)はともに、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度の高さと有意な関連が認められた。また、フレイルと台所で過ごす時間の交互作用が認められた(b=-0.10〔-0.17~-0.035〕)。これは、フレイルまたはプレフレイルの人において、台所で過ごす時間が長いほど主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いという関連が、より強いことを示している。

     著者らは、台所で過ごす時間が減少する背景因子が調査されていないことや、横断研究であるため台所で過ごす時間が長いことと健康的な食生活の因果関係は分からないことなどを限界として挙げた上で、「高齢女性、特にフレイルの女性に対して、料理や盛り付け、後片付けなどのために台所で過ごす時間を増やすという推奨が、健康的な食生活につながり、フレイルの進行抑制につながる可能性があるのではないか」と総括している。

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    HealthDay News 2024年9月9日
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