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9月 26 2023 糖尿病教育入院後の血糖管理に性格特性の一部が独立して関連
糖尿病教育入院患者を対象として、性格特性と退院後の血糖コントロール状況との関連を検討した結果が報告された。ビッグファイブ理論に基づく5因子のうち、神経症傾向のスコアと、退院3カ月後、6カ月後のHbA1c低下幅との間に、独立した負の相関が見られたという。宮崎大学医学部血液・糖尿病・内分泌内科の内田泰介氏、上野浩晶氏らの研究によるもので、詳細は「Metabolism Open」6月発行号に掲載された。
糖尿病は患者の自己管理が治療(血糖管理)の良し悪しを大きく左右する疾患であり、その自己管理をどの程度徹底できるかは、個々の患者の性格特性によってある程度左右される可能性が考えられる。ただし、過去に行われたこのトピックに関する研究結果は一貫しておらず、議論の余地が残されている。また、それらの研究は主として外来患者を対象に実施されてきている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。一方、糖尿病と診断されてから間もない患者や、外来治療を継続しても血糖管理不良が続く患者に対して、短期間入院してもらい、糖尿病治療に必要な知識や方法を集中的に指導する「教育入院」が行われる。その教育入院の効果にも、性格特性が関係している可能性が想定されるが、これまでのところ明らかにされていない。内田氏らは本研究を、「糖尿病教育入院患者の性格特性と退院後の血糖管理状況との関連を検討した、初の縦断的研究」と位置付けている。
研究対象は、2021年の1年間に同大学附属病院や古賀総合病院で糖尿病教育入院を受けたHbA1c7.5%以上の患者のうち、退院後6カ月間追跡可能だった117人。性格特性は、ビッグファイブ理論の5因子をそれぞれ1~7点のスコアで評価し、入院時のHbA1c、および退院1、3、6カ月後時点のHbA1c低下幅との関連を解析した。
対象者の入院時点の主な特徴は、平均年齢60.4±14.5歳、男性59.0%、2型糖尿病82.9%、罹病期間11.4±10.5年、BMI24.9±5.1で、性格特性を表すスコアは、神経症傾向3.9±1.4、外向性4.0±1.4、開放性3.9±1.0、協調性5.3±1.0、勤勉性3.8±1.3。HbA1cは、入院時が10.2±2.1%であり、退院1カ月後は8.3±1.4%、3カ月後7.6±1.4%、6カ月後7.7±1.5%と、有意に改善していた。
入院時のHbA1cや退院後のHbA1c低下幅を目的変数とし、年齢、性別、病型、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、治療内容(1日当たりの経口・注射薬の投与回数)、および性格特性を説明変数とする重回帰分析の結果、性格特性は入院時のHbA1c、および退院1カ月後時点のHbA1c低下幅との有意な関連は認められなかった。また、性格特性の各因子のスコアの中央値で高値群と低値群に二分した上で、退院1カ月後時点のHbA1c低下幅を比較した結果も、群間に有意差はなかった。
それに対して、退院3、6カ月後時点のHbA1c低下幅は、神経症傾向のスコアと独立した負の関連がある(神経症傾向が強いほどHbA1cが大きく改善している)ことが明らかになった。具体的には、退院3カ月後時点のHbA1c低下幅との関連はβ=-0.192(P=0.025)、退院6カ月後時点はβ=-0.164(P=0.043)だった。また、神経症傾向のスコアの中央値で二分して比較すると、退院3カ月後時点のHbA1c低下幅はスコア高値群の方が有意に大きく(P=0.034)、退院6カ月後時点も境界域の有意差が認められた(P=0.050)。なお、神経症傾向以外の性格特性は、いずれの時点のHbA1c低下幅とも有意な関連がなかった。
これらの結果は、教育入院期間中に行われる集中的な療養指導が、患者の性格特性にかかわらず有意なHbA1c改善効果をもたらすこと、および、神経症傾向が強い性格特性の患者では、教育入院の効果が長期間持続しやすいことを意味している。著者らは、「患者の性格特性は容易には変えられないが、性格特性に応じて治療アプローチをアレンジすることは可能である。今後の研究により、そのようなアレンジの手法を確立することが期待される」と述べている。
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7月 24 2023 糖尿病予備群は食後高血糖是正により心血管転帰が改善――介入後10年間の観察研究
食後高血糖への介入が転帰改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。国内で実施された多施設共同研究「DIANA研究」終了後の追跡観察調査が行われ、国立循環器病研究センター心臓血管内科部門冠疾患科の片岡有氏らによる論文が、「Journal of Diabetes and its Complications」5月号に掲載された。
糖尿病では食後のみでなく食前の血糖値も高くなるが、糖尿病予備群と言われる75gブドウ糖負荷試験にて診断可能な耐糖能異常(impaired glucose tolerance;IGT)や初期の糖尿病は、食前の血糖値は正常だが食後の高血糖を伴う。食後の高血糖は心血管疾患発症のリスク因子であることを示唆する多くの疫学研究結果が報告されている。しかしながら、食後高血糖への治療介入により、心血管疾患発症リスクが抑制されるかという点については、いまだ十分に明らかになっていない。
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DIANA研究では302人の患者を、α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース)群、グリニド薬(ナテグリニド)群、あるいは食事・運動療法群の3群に無作為に割り付け、1年間の介入終了後は主治医の裁量による治療が継続されていた。このうち、243人が追跡調査の解析対象とされ、その平均年齢は64.6±9.3歳、女性が13.6%であり、IGTが58.9%、初期の2型糖尿病は41.1%であった。主要評価項目は、観察期間中の全死亡、非致死性心筋梗塞、緊急冠動脈血行再建術を含めた主要心血管イベント(MACE)の発生率と定義された。
中央値9.8年(範囲7.1~12.8)の観察期間におけるMACE発生件数は91件であった。DIANA研究において食後血糖改善を目指した薬物治療群のMACE発生率は、食事・運動療法群と有意差を認めなかった〔ボグリボース群はハザード比(HR)1.07(95%信頼区間0.69~1.66)、ナテグリニド群はHR0.99(同0.64~1.55)〕。MACEを構成する全死亡、非致死性心筋梗塞、血行再建術それぞれの発生率についても、薬物治療群と食事・運動療法群の間に有意差は見られなかった。IGT、初期糖尿病それぞれにおいても、薬物治療群のMACE発生率は食事・運動療法群と同等であった。
本研究では、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後における糖代謝改善の有無(IGTから正常耐糖能への変化、糖尿病からIGTあるいは正常耐糖能への変化)により対象症例を2群に分類しMACEの発生率が比較された。対象症例の55.9%は糖代謝改善を認めたが、MACE発生率は非改善群と有意差を認めなかった〔HR0.78(0.51~1.18)〕。
対象症例を、IGT、初期糖尿病に層別化して検討を行った。IGTの症例においては、IGTから正常耐糖能へ改善していた群は、非改善群に比して観察期間中のMACE発生率が有意に低率であった〔HR0.55(0.31~0.97)〕。年齢、性別、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、血圧、スタチンやβ遮断薬使用を調整後も、結果は同様であった〔HR0.44(0.23~0.86)〕。
一方、初期糖尿病症例では、IGTあるいは正常耐糖能へ改善していた群のMACE発生率は、非改善群と比較して有意差を認めなかった〔HR1.49(0.70~3.19)〕。著者らは本研究の限界点として、post-hocの事後解析であること、無作為化割り付けによる介入期間が1年間と比較的短いこと、観察期間中の糖代謝の変化のデータは収集していないことなどを挙げている。α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースによる心血管イベント発生率の減少を報告した先行研究「STOP-NIDDM」は介入期間が長く、IGTのみを対象としており、CADを有する症例は4.8%のみであった。一方、本研究はCADをすでに有しているIGTあるいは初期糖尿病症例を対象としていることから、著者らは、α-グルコシダーゼ阻害薬の心血管疾患発症に対する効果が異なった可能性を述べている。これらの考察の上で論文の結論は、「CADのあるIGT患者の長期予後改善においては、正常耐糖能への改善を目指した介入治療が必要と考えられる」と記されている。
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5月 08 2023 補完代替医療を利用している2型糖尿病患者は健康関連QOLが低い
通院中の2型糖尿病患者の4割弱が何らかの補完代替医療を利用しており、利用者は非利用者に比べて健康関連QOLが有意に低いという調査結果が報告された。香川大学医学部衛生学教室の森喜郎氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiologia」に1月20日掲載された。
補完代替医療(complementary and alternative medicine;CAM)は、標準的な現代医療と合わせて、または単独で実施される、非標準的な医療のこと。具体的には、健康食品やサプリメント、マッサージ、アロマセラピー、ヨガ、処方によらない漢方、鍼灸、温熱療法、音楽療法、森林療法などが該当し、一般的に医師の判断ではなく患者自身の意思によって利用される。
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調査対象は、2021年7月12日~9月17日に坂出市立病院の外来を受診した2型糖尿病患者のうち、CAMおよびHRQOLに関する自記式アンケートに回答した421人。HRQOLは、国際的に用いられている「EQ-5D」という質問票の日本語版を用いて評価した。これは、痛み、不快感、不安、うつなどの程度、日常生活活動などを0~1点の範囲にスコア化して判定するもの。数値が高いほど健康であることを意味し、完全に健康な状態の場合は1となる。
対象者の主な特徴は、平均年齢67.3±12.8歳、男性58.7%、BMI25.3±4.6、糖尿病罹病期間5,863.9±3,711.7日、HbA1c7.5±1.5%、eGFR61.3±19.6mL/分/1.73m2で、46.3%がインスリン療法を行っており、HRQOLは0.860±0.200だった。
全体の38.2%の患者が、何らかのCAMを利用していた。最も利用率が高かったのは、サプリメントや健康食品であり、26.6%が利用していた。性別に見た場合、男性のCAM利用率は32.8%、女性は46.0%であり、女性の方が有意に高かった(P=0.006)。ただし、年齢、BMI、罹病期間、HbA1c、eGFRには、CAM利用の有無による有意な群間差は観察されなかった。
次に、CAMの種類ごとに、利用している患者と利用していない患者のHRQOLを比較すると、漢方や磁気療法、カイロプラクティック、温熱療法、スパセラピーについては、それらを利用している患者群の方がHRQOLが有意に低かった。また、何らかのCAMを利用している患者群のHRQOLは0.829±0.221、利用していない患者群は0.881±0.189であり、前者の方が低値だった。HRQOLに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、罹病期間、HbA1c)を調整後の比較でも、有意な群間差が認められた(P=0.014)。
喘息患者や炎症性腸疾患などの患者を対象に海外で実施された同様の調査では、CAM利用患者はHRQOLが低いことが報告されている。今回の国内2型糖尿病患者を対象とした研究も、それらの既報研究と同様の結果となった。この理由について論文中には、「CAMを利用したことでHRQOLが低下したのではなく、HRQOLを低下させるような併存疾患や症状がある患者が、標準的な治療に加えてCAMを必要としているという実態を反映しているのではないか」と記されている。
これらの結果と考察に基づき、著者らは、「CAMを利用している2型糖尿病患者は、利用していない患者よりもHRQOLが有意に低かった。CAMの健康転帰への寄与に関するエビデンスは限られているため、CAMに関する適切な情報提供が重要と考えられる」と総括。また、本研究が単施設で実施された横断研究であるため、「因果関係の理解や他の地域・医療機関の患者群での実態を把握可能なデザインでの研究が必要」と付け加えている。
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