• パンデミック中の会話の少なさが希死念慮と関連――医学生での検討

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に実施された医学部の学生を対象とする調査から、他者との会話の頻度が週に1回未満の場合、希死念慮のリスクが有意に高いことが明らかになった。パーソナリティや友人の数、独居か否かなどの共変量を調整後も、この関係は有意だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。

     社会的な孤立は、希死念慮や自殺企図のリスク因子であるとされている。社会的な孤立を回避するために最も重要な手段の一つは他者との会話であり、会話が孤独感やうつ、不安を軽減するとの報告もある。しかし現在はCOVID-19パンデミックによって、社会的な距離を保つことを求められている。大学の講義も長期間オンラインのみとなり、学生は他者との会話の機会が減り、社会的に孤立した状態に陥りやすい環境となった。国内の大学生の自殺者数がパンデミックに伴い上昇しているとする研究結果も、既に報告されている。

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     このような状況を背景として藤原氏らは、パンデミック下での他者との会話の頻度の低下が希死念慮を高めているとの仮説を立て、2021年5月25~26日に同大学医学部4年生を対象とするオンラインアンケートを行い検証した。なお、2021年5月末はパンデミック第4波に当たり、東京には緊急事態宣言が発出されていた。

     アンケートでは、「あいさつ以外の会話の頻度は?」という質問に、「週3回以上」、「週に1~2回」、「週に1回未満」、「なし」の中から回答してもらった。会話の相手が誰か、会話の長さ、手段(対面、電話、ネットなど)、場所などは特に限定しなかった。

     希死念慮については、MINIという精神疾患簡易構造化面接法で自殺リスクを調査する際に用いられる以下の3つの質問を用いた。いずれかに「はい」と解答した場合に、「希死念慮あり」と判定した。3つの質問とは、過去1カ月間に「死んだほうが良いと思ったことがあるか?」、「自分を傷つけたいと考えたことがあるか?」、「自殺について考えたことがあるか?」というもの。

     このほか、共変量として、性別、入学時年齢、友人の数、独居か否か、家族関係に不満はあるか、ビッグファイブ理論に基づくパーソナリティ、世帯所得の多寡の自己認識などを把握した。

     113人中98人がアンケートに回答した(回答率86.7%)。男子が63.3%、高校新卒入学(現役合格)が67.3%、高校既卒入学が18.4%、他大学卒後入学が14.3%、独居者28.6%であり、友人の数は医学部の友人が6.72±0.40人、医学部外の友人が19.60±1.02人だった。

     会話の頻度は、「週3回以上」が79.6%、「週に1~2回」が11.2%、「週に1回未満」が4.1%、「なし」が5.1%であり、「希死念慮あり」の該当者は20人(20.4%)だった。

     ポアソン回帰分析により、会話の頻度が「週3回以上」の群を基準として、前記の共変量(友人の数やパーソナリティ、独居か否かなど)を調整後に、他群の「希死念慮あり」該当割合を比較すると、「週に1回未満」では6.54倍(95%信頼区間1.18~36.21)、「なし」では9.30倍(同1.41~61.06)と、それぞれ有意なリスクの上昇が認められた。「週に1~2回」では0.78倍(同0.08~6.92)であり非有意だった。線形回帰分析からも、ほぼ同様の結果が得られた。

     なお、ポアソン回帰分析からは、家族関係に不満があることやパーソナリティの神経症傾向が、非有意ながら希死念慮を有することと関連する傾向が見られた。一方、新卒入学か既卒入学かの違い、独居か否か、友人の数、所得の多寡の自己認識などは、希死念慮を有することとの関連が認められなかった。

     著者らは、本研究の限界点として、対象が医学部の4年生であり大学生全体の傾向を表しているとは言えないこと、大学生の中では1年生がパンデミックによるメンタルヘルスの影響を最も強く受けているとする報告があり、本研究の結果は希死念慮のリスクを過小評価している可能性のあることなどを挙げている。その上で、「週に1回未満の会話では、友人の数などとは無関係に、大学生の希死念慮リスクが高まる。オンラインによる学生間の交流の機会を増やすなどの対策を考慮する必要性が示唆される」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年7月19日
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  • 腎機能障害がCOVID-19重症化に独立して関連――国内多施設共同研究

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院時に腎機能障害を有することが、COVID-19重症化リスクと独立して有意に関連していることが国内の研究から明らかになった。横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター内科の佐藤亮佑氏、松澤泰志氏、同大学大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一氏らによる多施設共同研究の結果であり、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に6月3日掲載された。

     肺炎や尿路感染症などの感染症での入院時には、腎機能障害が予後に関連していることが既に知られている。ただしCOVID-19入院患者での腎機能と予後との関連は不明。松澤氏らはこの点について、国内8病院の入院患者のデータを遡及的に解析した。

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     解析対象は、2020年2月5日から同年末までのCOVID-19入院患者のうち、解析に必要なデータの欠落がない500人(平均年齢51±19歳、男性61.2%)。推算糸球体濾過量(eGFR)60mL/分/1.73m2未満または尿蛋白1+以上を腎機能障害と定義すると、171人(34.2%)が該当した。重症化リスクは、院内死亡、体外式膜型人工肺(ECMO)や人工呼吸管理(侵襲的または非侵襲的)による治療、ICU入室で構成される複合エンドポイントの発生率で評価した。

     複合エンドポイント発生率は全体で12.0%であり、腎機能障害を有する群の方が有意に高かった(25.2対5.2%、P<0.0001)。エンドポイントを個別に見ても、院内死亡(12.3対1.2%)、人工呼吸管理(13.5対4.0%)、ICU入室(18.1対5.2%)は、腎機能障害を有する群の発生率が有意に高かった(いずれもP<0.0001)。ECMO施行の群間差は有意水準に至らなかった(2.9対0.9%、P=0.09)。

     eGFRで層別化して解析すると、腎機能が高度に低下しているほど複合エンドポイント発生率が高いことが分かった(eGFR60以上で8.3%、45~59は20.7%、45未満は32.6%、P<0.0001)。尿蛋白レベルで層別化した場合も結果は同様だった(尿蛋白陰性または±で6.9%、1+以上では29.3%、P<0.0001)。

     多変量ロジスティック回帰分析で、予後に影響を与え得る因子(年齢、性別、高血圧・糖尿病・脳血管疾患・心血管疾患・慢性閉塞性肺疾患の既往、免疫抑制状態、血清アルブミン、CRP)を調整後、入院時の腎機能障害がCOVID-19重症化に有意かつ独立して関連していることが明らかになった〔オッズ比(OR)2.35(95%信頼区間1.14~4.86)、P=0.02)〕。

     腎機能障害のほかには、年齢〔65歳以上でOR2.84(同1.33~6.05)、P=0.007〕、CRP〔1mg/dL当たりOR1.13(同1.06~1.20)、P=0.0001〕がそれぞれ重症化に有意に関連していた。一方、血清アルブミン〔1g/dL当たりOR0.34(同0.16~0.71)、P=0.004〕は有意な負の関連因子だった。

     著者らによると、本研究はCOVID-19入院患者の短期予後予測マーカーとしての腎機能障害の有用性を示した国内初の研究という。腎機能障害が交絡因子を調整後もCOVID-19重症化と関連していることが明らかになったことから、「COVID-19による入院時の腎機能障害は、重症化リスクの層別化に役立つと考えられる。併存疾患や検査所見にかかわりなく、腎機能障害のあるCOVID-19患者の治療には注意を要する。また、腎機能障害の早期発見と適切な治療戦略によって、COVID-19患者の予後改善につながる可能性がある」と述べている。

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    HealthDay News 2022年7月4日
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  • COVID-19ワクチン接種はメンタルヘルスを改善しない?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが人々のストレスとなり、メンタルヘルスの悪化につながることが懸念されている。それに対してワクチン接種を受けると、感染や重症化リスクが低下するという安心感から、メンタルヘルスが改善するとの期待がある。しかし実際には、そのような影響は見られないとする研究結果が4月12日、「Neuropsychopharmacology Reports」に短報として掲載された。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の佐々木那津氏、川上憲人氏らによる報告。

     この研究は、企業や医療機関の労働者を対象に、国内でワクチン接種が始まった初期段階で実施された。2021年2月4~10日、および同年6月22~29日に、職業性ストレス簡易調査票(brief job stress questionnaire;BJSQ)を用いたweb調査を行い、ワクチン接種前と接種後で、労働者のメンタルヘルス状態に変化が生じているか否かを検討した。BJSQは18項目からなり、活力の低下、怒りの感じやすさ、倦怠感、不安、うつレベルをスコア化し、18~72点の範囲で評価する。なお、国内では同年2月17日に医療従事者のワクチン先行接種が始まり、6月21日から職域接種がスタートしていた。

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     前記2回の調査の両方に回答した948人のうち105人(11.1%)が、2回目の調査時点で少なくとも1回のワクチン接種を受けていた。ワクチン接種を受けていた群は未接種群に比べて、女性や医療福祉従事者、所属組織の規模が大きい労働者が多く、教育歴が長いという差が見られた。また、医療従事者は54.4%が1回以上のワクチン接種済みであるのに対して、非医療従事者ではその割合が5.8%と少なかった。

     BJSQのスコアは、ワクチン接種者では1回目の調査が41.8±10.9、2回目の調査が42.0±11.9、未接種者では同順に41.2±11.4、41.2±11.6であり、両群ともに経時的な変化がなく、群間差もなかった(反復測定分散分析による時間と群間の交互作用P=0.833)。性別や年齢、婚姻状況、教育歴、慢性疾患、所属組織の規模、業種、医療従事者か非医療従事者かを調整後も、ワクチン接種者は41.4±1.7、42.4±1.8、未接種者43.3±1.2、43.4±1.2であり、ワクチン接種の有意な影響は認められなかった(P=0.446)。また、BJSQのサブスケールである、活力の低下、怒りの感じやすさなどを個別に検討しても、有意性は確認されなかった。

     この結果を基に著者らは、「COVID-19ワクチン接種は、日本人労働者のメンタルヘルスに顕著な影響を与えないと考えられる。よって組織管理者は、ワクチン接種率が上昇した後も、従業員にメンタルヘルスケアの提供を続けることが重要」と結論付けている。なお、結果がネガティブであったことに関して、ワクチンの有効性が今ほど周知されていない時期の調査であることや、2回目の接種を終えていない人が含まれていたことなどが、背景にあるのではないかとの考察が述べられている。また、パンデミックに伴いCOVID-19感染の恐れとは異なる、社会経済的問題のためにメンタルヘルスに影響が及んでいた可能性もあるという。

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    HealthDay News 2022年6月6日
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  • かかりつけ医のあり/なしでパンデミック中の予防医療実施率に有意差

     かかりつけ医を持っている人はそうでない人に比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の予防医療の実施率が有意に高いというデータが報告された。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部の青木拓也氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に3月16日掲載された。

     COVID-19パンデミックにより、検診受診率やCOVID-19以外のワクチン接種率が低下したことで、予防可能な疾患の罹患率が将来的に上昇するのではないかとの懸念が高まっている。一方、かかりつけ医は疾患罹患時の治療のみでなく、住民のふだんからの健康管理を担っており、パンデミックのような特殊な状況下でもその役割に期待がかかる。そこで青木氏らは、パンデミック発生以降の一般市民の予防医療実施率が、かかりつけ医のあり/なしによって異なるか否かを検討した。

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     この調査は、パンデミック第4波が発生していた2021年5月に実施された。日本リサーチセンターに登録されている一般住民パネルから、地域別人口構成(年齢と性別)に合わせて抽出された20~75歳の一般市民2,000人に回答協力を依頼し、1,757人(平均年齢50.1±15.1歳、女性51.1%)から有効回答を得た。

     かかりつけ医の有無は、「体調が悪いときや健康について相談したいときに、いつも受診する医師はいるか?」という質問に「はい」と答え、その医療機関が大学病院以外である場合に「かかりつけ医あり」と定義した。予防医療については、一般的な生活習慣病やがん、うつ病のスクリーニング、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種、および禁煙や体重管理などのカウンセリングの実施率で評価した。

     また、「JPCAT-SF」という評価指標を用いて、回答者がふだん受診している医師のかかりつけ医機能を評価した。JPCAT-SFは100点満点で評価され、点数が高いほどかかりつけ医機能が優れていることを意味する。

     解析の結果、全体の57.5%が「かかりつけ医あり」に該当した。かかりつけ医のある群とない群を比べると、前者は高齢で(平均53.1対45.9歳)、女性の割合が高く(53.9対47.3%)、非就労者が多く(29.7対20.2%)、慢性疾患の有病率が高い(慢性疾患が2つ以上の割合が34.5対11.9%)という差が認められた。

     予防医療の実施について見ると、まず疾患スクリーニングの実施率の平均は、かかりつけ医あり群56.3%、なし群45.0%で、住民属性を調整後の平均差が7.0%(95%信頼区間4.4~9.6)であり、かかりつけ医あり群の方が有意に高かった。ただし、スクリーニングの受診率を対象疾患ごとに見ると、生活習慣病やがんについては全般的に高いものの、うつ病のスクリーニングについては、かかりつけ医なし群で7.8%、あり群でも11.2%であり、かかりつけ医がうつ病の早期発見にあまり寄与していない可能性が示された。

     そのほか、ワクチン接種率の調整後平均差は7.9%(95%信頼区間5.4~10.3)、カウンセリングの実施率は同8.0%(1.6~14.3)であり、いずれもかかりつけ医あり群の方が有意に高かった。スクリーニング、ワクチン接種、カウンセリングの全てを統合した全体的な解析では、かかりつけ医あり群43.9%、なし群33.9%で、調整後平均差は7.2%(5.2~9.1)だった。

     次に、かかりつけ医あり群をJPCAT-SFスコアの四分位で4群に分類し、かかりつけ医なし群と比較した。その結果、JPCAT-SFスコア第1位四分位群(ふだん受診している医師のかかりつけ医機能が低い下位25%)であっても、かかりつけ医なし群よりスコアが有意に高かった〔41.1対33.9%、調整後平均差3.5%(95%信頼区間0.5~6.4)〕。

     この結果から著者らは、「COVID-19パンデミックという特異な状況においても、かかりつけ医を持っていることが予防医療の実施率向上に寄与することが明らかになった」と結論付けている。ただし、うつ病のスクリーニングを受けていた割合が低値であったことから、「かかりつけ医がメンタルヘルスの問題に取り組むことが、パンデミック中およびパンデミック後の重要な課題と言えるのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2022年5月10日
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  • COVID-19予防行動の順守率は何から情報を得たかで異なる

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の情報をどのような経路で入手したかによって、感染抑止のための予防行動の順守状況に差が見られるとする研究結果が報告された。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Healthcare」に3月13日掲載された。

     COVID-19パンデミックの初期から、マスク着用や三密回避などの感染予防行動が繰り返し推奨されてきている。しかし、それらをどの程度順守するかは人によって異なる。草間氏らは、COVID-19関連情報の入手経路が予防行動の順守に影響を与えている可能性を想定して、以下の検討を行った。

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     解析対象は、2020年8~9月に実施した「日本における新型コロナウイルス問題による社会・健康格差評価研究」、および2021年2月に実施した「日本における社会と新型タバコに関するインターネット調査」という2つのWeb調査に回答した20~79歳の成人1万8,151人(平均年齢51.7±15.9歳、男性51.3%)。

     評価した予防行動は、マスク着用、部屋の換気、ソーシャルディスタンス、混雑回避という4項目。情報源については、人や組織(家族、友人、職場や学校、医療従事者、有名人、専門家、政府、学術機関)、SNS(YouTubeなどの動画共有サイト、LINE、Twitter、Facebook、Instagram)、メディア(Webニュース、新聞、雑誌、本、テレビニュース、テレビの情報番組、ラジオ)という計20種類の利用状況を把握した。そのほかに共変量として、性別、年齢、教育歴、所得、同居者の有無、ヘルスリテラシー(CCHLという指標で評価)に関する質問の回答を得た。

     結果について、まず利用率の高い情報入手経路を見ると、テレビニュースがトップで84.2%であり、Webニュース68.3%、テレビの情報番組66.2%、家族57.8%、新聞53.6%、友人46.4%、政府44.2%と続き、専門家は33.7%で9位、医療従事者は20.8%で13位だった。情報入手経路の下位は、Instagram(7.7%)、本(7.8%)、Facebook(8.9%)、学術機関(10.0%)、Twitter(14.1%)などだった。

     2020年調査における予防行動の順守率は、マスク着用86.2%、部屋の換気46.9%、ソーシャルディスタンス45.4%、混雑回避62.6%であり、2021年調査では同順に89.3%、38.2%、47.2%、61.6%だった。これら4種類の予防行動と情報入手経路との関連を、多変量解析にて前述の共変量を調整して検討した。その結果、以下の有意な関連が認められた。

     Webニュースから情報を得た人は、マスク着用(絶対差7.3%)、部屋の換気(5.5%)、混雑回避(5.5%)という3種類の行動の順守率が有意に高かった。また、Twitterから情報を得た人は、マスク着用(3.8%)、部屋の換気(4.7%)、ソーシャルディスタンス(6.4%)という3種類の行動の順守率が有意に高かった。このほかに、医療従事者、専門家、政府、テレビニュースから情報を得た人は、4種類の予防行動のうちのいずれか2種類の順守率が有意に高かった。

     一方、順守率の低下と有意な関連の見られた情報入手経路もあった。例えば、Instagramから情報を得た人は、マスク着用の順守率が-18.9%、Facebookから得た人はソーシャルディスタンスが-6.8%、有名人から得た人は混雑回避が-4.7%だった。また、新聞から情報を得た人は、マスク着用の順守率が有意に高いが(3.1%)、部屋の換気の順守率は有意に低かった(-2.8%)。

     これらの結果を基に著者らは、「特定の情報源を利用していることが、COVID-19に対する予防行動の順守に関連していることが明らかになった。一方、検討した4種類全ての予防行動の順守と有意に関連していた情報源は観察されなかったことから、各情報源が発信していた情報が網羅的なものでなく、内容にむらがあった可能性がある。全ての人の予防行動を喚起する情報提供体制の構築が重要ではないか」と総括している。

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    HealthDay News 2022年5月2日
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  • COVID-19入院中のせん妄が死亡率と有意に関連――近畿中央呼吸器センター

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者のせん妄の発症率、リスク因子、および転帰との関連が報告された。国立病院機構近畿中央呼吸器センターの倉原優氏らの研究によるもので、詳細は「Internal Medicine」に2月26日掲載された。COVID-19入院中のせん妄発症は、院内死亡率に独立して関連しているという。

     せん妄は一過性の意識障害で入院中に発症しやすく、特に高齢者に多い。入院中のせん妄は一般に、入院期間の延長や予後の悪化と関連することが知られている。ただし、COVID-19での入院時のせん妄の実態はまだよく分かっていないことから、倉原氏らは以下の研究を行った。

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     解析対象は、COVID-19のため2020年4月~2021年9月に、同院に入院した全患者、連続600人〔年齢中央値61.0歳(四分位範囲49.0~77.0)、女性37.3%〕。ICU入室、機械的人工換気、体外式膜型人工肺(ECMO)のいずれかを要した場合、あるいはCOVID-19によって死亡した場合に「重症COVID-19」と定義した。また、せん妄の発症は、米国精神神経医学会の疾患診断基準(DSM-5)または医師の臨床判断に基づいて判定した。なお、同院の医師の9割以上が、緩和ケア継続教育プログラムを修了しており、全看護師が多職種せん妄対応プログラムを修了している。

     入院中にせん妄を発症した患者は、61人(10.2%)だった。そのうち95.1%に当たる58人は入院第1週にせん妄を発症し、他の3人は第2週に発症していた。せん妄を発症した患者は非発症患者に比べて、高齢で〔年齢中央値84.0歳(四分位範囲77.5~88.0)対56歳(同49.0~74.0)、P<0.01〕、心血管疾患、認知症、慢性腎臓病の既往者が多く、またCOVID-19が重症の定義に当てはまる割合(32.8%対11.3%)が高かった(すべてP<0.01)。一方、高血圧や糖尿病の有病率は有意差がなく、また性別(男女比)も有意差がなかった。

     検査データ関連では、炎症マーカー(CRP)や凝固マーカー(D-ダイマー)、および乳酸脱水素酵素(LDH)がせん妄を発症した患者で高く、有意差が認められた。治療内容に関しては、酸素投与(65.6%対53.6%、P=0.012)、呼吸困難に対するモルヒネ投与(14.8%対0.4%、P<0.01)の施行率が、せん妄発症患者で高かった。ステロイド投与や機械的人工換気の施行は、有意な差がなかった。また、せん妄を発症した患者は入院期間〔中央値18日(四分位範囲12~23)対11日(10~15)〕が長く、院内死亡率(24.6%対1.6%)が高かった(いずれもP<0.01)。

     多変量解析(強制投入法とステップワイズ法)の結果、せん妄の発症に独立して関連する因子として、高齢〔1歳ごとにオッズ比(OR)1.092~1.120〕、重症COVID-19(OR3.937~4.497)、認知症(OR5.279~8.046)、およびLDH高値(10IU/LごとにOR1.046~1.057)が抽出された。また、せん妄の発症は院内死亡率と独立して関連していた〔変数増減法でOR3.476(95%信頼区間1.105~11.900)、P=0.047〕。

     著者らは、「COVID-19入院患者でのせん妄発症率は高く、また転帰不良と関連している。パンデミック中に全てのCOVID-19患者に対して手厚いケアを行うことは困難だが、せん妄のリスクを認識して最適な管理を目指す必要があるだろう」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年4月4日
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  • パンデミック下の日本人の自殺の理由の変化

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での自殺の理由を、詳細に検討した結果が報告された。男性では主に仕事のストレスや孤独感、女性では家庭・健康・勤務問題が動機と考えられる自殺が増えているという。宮崎大学医学部臨床神経科学講座精神医学分野の香田将英氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に1月31日掲載された。

     これまで緩やかに減少傾向であった日本の自殺者数が、COVID-19パンデミック下で増加に転じたことが報告されている。特に女性における自殺者数の増加は、これまでにない傾向である。ただし、パンデミック下で自殺既遂に至った人の動機の傾向は明らかになっていない。COVID-19パンデミック下で増加している自殺理由を明らかにし、自殺予防対策を講じることは、公衆衛生上の重要な課題である。この状況を背景に香田氏らは、警察庁が集計し厚生労働省が公表している自殺統計データを用いて、自殺理由の詳細な検討を行った。

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     2014年12月~2020年6月の約5年間の自殺者データを基に、準ポアソン回帰モデルという統計学的手法を用いて、2020年1月~2021年5月の自殺死亡者数の予測値を算出した。実際の自殺死亡者数が予測値の95%予測区間の上限を超えた場合を「自殺による超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)の発生」と定義した。また、予測値に対する実際の自殺死亡者数の比を、「自殺による超過死亡割合」とした。自殺の理由は、自殺対策基本法に記載されている7つの大項目(家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題、男女問題、学校問題、その他)と不詳以外の52の小項目別に検討した。

    2020年1月~2021年5月の自殺死亡者数は2万9,938人であり、そのうち自殺の理由が記されていたのは2万1,027人(男性が64.7%)だった。前記の自殺理由の大項目7つ全てについて、超過死亡が発生していた月が確認された。最も高い超過死亡割合は2020年10月の25.8%であり、性別では男性が6.1%、女性は60.8%に及んでいた。

     小項目別では、男性は失業による超過死亡が発生した月が1回あり、その超過死亡率は42.9%に達していた。そのほかに、仕事の失敗による超過死亡が複数の月で発生し〔超過死亡割合(複数月で超過死亡を認めた場合は最小値~最大値で表記)3.4~6.9%〕、仕事疲れ(同2.0~34.1%)、職場の人間関係(18.6%)、職場環境の変化(8.3%)、孤独感(7.4~25.0%)などの理由による自殺の超過死亡が認められた。女性では、親子関係の不和(4.2~4.5%)、夫婦関係の不和(4.3~39.1%)、子育ての悩み(22.2~40.0%)、介護・看病疲れ(25%)、身体の病気(15.4~20.4%)、うつ病(15.1~34.2%)、統合失調症(26.1%)、アルコール依存症(45.5%)、学友とのトラブル(60%)などの理由による自殺の超過死亡が認められた。

     著者らは、「本研究によって、COVID-19パンデミック下の日本人の自殺は、さまざまな理由で増えており、性別により理由が異なることが明らかになった。この結果は、パンデミック下での自殺者数の増加に対して、性差によって理由が異なることを念頭に適切な予防策を策定するための基礎資料となり得る」と述べている。

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    HealthDay News 2022年3月7日
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